プロジェクトProjects

 

アングラーズ・ピット
Angler’s pit

1999
北海道河西郡中札内村

構  造:鉄筋コンクリート造 + 鉄骨造 
階  数:地上2階
延床面積:259㎡

札幌構造設計事務所( 構造設計 )

広大な十勝平野の中に開拓の人々が刻んだ人間の唯一の営為、屯田区画の面影を最も色濃く残した美しい風景の中にこの建物の敷地がある。すなわち、真っ直ぐな道路、そして区画をやさしく包む防風林、それに囲まれた広い畑、それらすべてが “カルテジアングリッド” を構成する。それ以外は頼るべきコンテクストは何もない。私たちは只、この風景を矮小化しないことを設計の唯一のコンセプトとした。
クライアントから「アングラーズピット」という名称を当初から頂き、これが単なる私的な住居ではなく釣り愛好家や仲間達の “コモンズ(共有地)”として意図していることが推察できたことが私たちの肩を押してくれたように思える。事実クライアントからは、仲間と語らう暖炉、ビリヤード台、ミニバーのある空間のみを要求された以外、私的な好み等は一切触れられることはなかった。
私たちの出した答えはシンプルである。まず中央に全体のキール(背骨)として、北側防風林に平行に1Fコンクリート造2F鉄骨造の水平力を受ける頑丈な2枚の壁を立ち上げ、そこには水廻りや階段を集中させ、その壁に向かって南と北に大きく単純な屋根を差しかけた。特に南面は三方に開放し、天井も折り上げ方向ではなく水平方向に貼り、南面に対してあくまで横(水平)の拡がりを意識させるよう努めた。特に南側は屋根というより一つの版として扱いたかったので、三方向共下部の壁等と縁を切ってスリットによる納まりをしている。
できるだけ抽象化し水平観を出すことに努めたが、やはり広大な自然の中ではどうしても矮小感は拭えなかった。クライアントが私たちの期待以上にこの空間を “コモンズ” のプラットフォームとして活用していただいていることが、私たちの望外の喜びである。